丈のみじかい夢をはおって陸橋の上へあなたの手品見にゆく
服部真里子『遠くの敵や硝子を』
服部真里子の第二歌集『遠くの敵や硝子を』(2018年)に収められた一首です。
手品は屋外でも屋内でもどちらでも演じられることはありますが、比較すれば屋内で演じられることが多いでしょう。
ステージマジックであればステージで、クロースアップマジックであれば居酒屋や職場、家の中などで見かけることが多いかもしれません。もちろんビル消失や大脱出など大掛かりなものであったり、ストリートマジックと呼ばれるものだったりすれば、屋外でされるケースがありますが、どちらかといえば特別な部類になるでしょう。
さて、掲出歌において、どこで手品が演じられるのかいえば「陸橋の上」なのです。陸橋の上というのはかなり特別なケースではないでしょうか。
上句に「丈のみじかい夢をはおって」とあるため、これは実景というよりも、心象風景、半分夢の話のような位置づけとして捉えた方がいいのかもしれません。
それにしても「丈のみじかい夢」とはどんな夢でしょうか。衣類に対して「丈がみじかい」は使う言葉ですが、夢に対して使われる場合は、自分の身の丈にあった夢ではないということでしょうか。
また「夢」は、将来の夢というときの「夢」なのか、夜眠っているときに見る「夢」なのか、突き詰めて考えていくとよくわからなくなってしまいます。「夢をはおって」といういい方も不思議な表現です。何となくの雰囲気は伝わりますが、そのふわっとした感じがどこか現実とはかけ離れた印象を残します。
そんな状態で見にゆく手品は「陸橋の上」で行われるのです。そこで演じられる手品ははたしてどんな手品でしょうか。このあたりは読み手の想像に委ねられていると思います。大掛かりな手品を想像してもいいですし、掌の上だけで演じられるコインマジックのようなものを想像してもいいでしょう。
しかし登場人物は「あなた」と主体の二人だけがクロースアップされているのように感じます。他に大勢の観客がいてその中のひとりとして「あなた」の手品を見るというよりは、主体だけが招かれているように思い、主体のためだけの手品が繰り広げられるような感じがします。
「陸橋の上」という場所がこの歌のポイントであり、唯一のヒントのように思いますが、やはり謎めいています。しかし「陸橋の上」という場所が独特の世界を展開させていることも間違いなく、「陸橋の上」から広がる視界と未来がどこまでも続いていくような印象を受けるのではないでしょうか。
この手品のタネも歌のタネも決して明かされることはないでしょうが、手品を見た後の不思議さのような気持ちと同じような印象をこの歌からは受け、それこそがこの一首の魅力なのだとしみじみ感じます。