手品の歌 #1

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手品の短歌

マジシャンが去った後には点々と宙に浮かんでいる女たち
穂村弘『シンジケート』

穂村弘の第一歌集シンジケート(1990年)に収められた一首です。

人体の空中浮遊というのはステージマジックの定番でしょう。

観客も「何か支えがあるんじゃないか」と疑いながら見ています。しかし、マジシャンはその疑いを取り払うように、人体の周りに輪っかを通すアピールを行い「何も支えはありませんよ」と示してくるのです。

支えがあれば人体が浮かんでいるように見えるのは当然ですが、支えがないから(支えがないと観客に示すことができるから)空中浮遊というマジックが成立するのです。

さて掲出歌ですが、そんな空中浮遊の場面を詠った歌です。浮いている女性は一人ではなく複数人います。それもまとまっているのではなく「点々」と浮かんでいる状況が詠われています。映像的な一首です。

初句二句の「マジシャンが去った後には」というところが、この歌の良さを高めていると思います。マジシャンがいままさに女性を浮かせている場面ではなく、去った後の状況を詠うことで、マジシャンがとても軽やかに女性たちを浮かせていった様子がありありと現れてくるようです。決して、苦労して女性たちを浮かせたのではありません。そのマジシャンの颯爽とした姿に、華麗なマジシャン像が想起させられるのです。

下句で、宙に浮かぶ女性たちに焦点が当たるようになっていますが、それよりもすでに去ってしまったマジシャンの像がいつまでも消し去りがたく、最終的にはマジシャンに焦点が当たるようになっている一首だと感じます。

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