使い捨てコンタクトレンズひからびて記憶のカーブをぐんにゃり描く
俵万智『チョコレート革命』
俵万智の第三歌集『チョコレート革命』(1997年)に収められた一首です。
主体は、使い捨てコンタクトレンズを普段使用しているのでしょうか。
そのコンタクトレンズを外して、ほったらかしにしていたことで、コンタクトレンズは乾いて干からびてしまったのでしょう。
コンタクトレンズを装着した状態で主体が見てきた世界は、すなわちコンタクトレンズが見てきた世界といいかえてもいいのではないでしょうか。
まるでコンタクトレンズの表面に沿うように「記憶」が刻み込まれているような印象を受けます。「記憶のカーブ」という端的な表現が、的確に「コンタクトレンズ」と「記憶」とをつなげているでしょう。
結句「ぐんにゃり」は「カーブ」と意味的に、またイメージ的に重なるところはありますが、あえて重ねられているのだと思います。
この歌の「ぐんにゃり」からは、あまりいい記憶のイメージは想像しにくく、むしろよくない記憶のイメージが浮かんでくるようです。具体的な記憶自体は描かれていない代わりに、読み手はさまざまに想像することが可能でしょう。
「使い捨て」「ひからびて」「ぐんにゃり」いった言葉が登場しますが、これらの語単体では大きなマイナスイメージはありませんが、いくつも登場することで少しずつ負のイメージが歌全体に積み重なっていくような感じを受けます。
「記憶のカーブ」という言葉に注目しがちですが、そのほかの言葉の選択や配置によって、この歌から立ち上がる世界が印象深い一首です。