春眠より覚めるわたしはチョコレートのカシュウナッツのように曲がって
杉﨑恒夫『パン屋のパンセ』
杉﨑恒夫の第二歌集『パン屋のパンセ』(2010年)に収められた一首です。
春眠は心地いいものですが、その心地よい眠りから覚めたときのことを詠んでいます。
目覚めたときの「わたし」は「カシュウナッツ」の形状みたいに、背中を丸めていたような体勢だったのではないでしょうか。カシュウナッツの描く弧と、体のかたちの曲線が重ね合わされて伝わってきます。
しかも、ただのカシュウナッツではなく、「チョコレートのカシュウナッツ」というところもポイントで、チョコレートの甘さが加味されています。カシュウナッツは曲線という形状を表しており、ここでのチョコレートは味のおいしさを表していると思います。つまりチョコレートの甘さを感じさせるほどに、春眠の甘い眠りが表現されていると思います。
よほど心地よい春眠だったのではないでしょうか。
眠る前は、体を伸ばして直線的な体勢で布団に入ったのかもしれません。しかし、眠りから覚めたときには、お腹を抱えるようにして、体を丸めている状態だったのでしょう。
カシュウナッツという喩えが素敵で、春眠の心地よさが伝わってくる一首ではないでしょうか。