夜の空にオリオン輝く星と星結び直線引きし人ありて
香川ヒサ『ヤマト・アライバル』
香川ヒサの第八歌集『ヤマト・アライバル』(2015年)に収められた一首です。
オリオン座は、冬の星座としてよく知られていますし、明るい星から構成されている星座なので夜空に輝いているのを割とすぐに見つけることができます。
そんなオリオン座を詠った歌ですが、星座そのものに対して、星座とは何なのかを改めて考えさせられる内容になっています。
夜空に輝く多くの星々は、一見夜空という平面に並んでいるように見ていますが、本来は誕生した時期も違えば、存在している場所も違います。星の大きさについても、地球からの距離との関係で、大きく輝くものもあれば、小さく見えるものもあり、実際の星の大きさがそのまま夜空に現れているわけではありません。
星々は、元々は関係性をもっているわけではありませんが、”星座”という枠組みが導入されると、途端に星と星が関係性をもちはじめます。
「星と星結び直線引きし人ありて」とあるように、人は星と星を直線で結んで、星座をつくりました。夜空に数多ある星の、どの星とどの星を結ぶかで、かたちは変わってきます。星の選択には自由度がありますが、その分、星座を考える人のセンスが問われるといってもいいでしょう。
現在、国際天文学連合によって定められた八十八星座が一般的ですが、この定義に限らず、古代の人は自由に夜空に星座を描いていたかもしれません。
オリオン座も同様で、ギリシア神話に登場するオリオンの姿を、最初に誰かが夜空に思い描いたのでしょう。直線による星の連なりを星座の枠組みとして知ることで、現在の我々も、その最初の人と同じように夜空にオリオンを思い描くことができるのです。
最初のその誰かが、夜空にオリオンを描かなかったら、ひょっとすると我々は今、オリオン座を見ることはなかったのかもしれません。オリオン座を構成する星は、オリオン座があろうとなかろうと変わらずに存在していますが、オリオン座は誰かが星を直線で結ばなければ、存在しなかったのです。
考えれば、星座というものは不思議なもので、曲線ではなく直線で結ばれています。直線というところもまた面白い要素でしょう。さらに星座は、想像や夢にあふれていると思います。星の誕生から終焉にも思いは及び、時間的な厚みも感じられるものでしょう。
オリオン座を眺めながら、最初にオリオン座を夜空に描いた人がいたのだなあと思いを馳せてみる、そんな時間も素敵なひとときなのではないでしょうか。