直線・曲線の歌 #10

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直線・曲線の短歌

湾というやさしい楕円朝あさにその長径をゆく小舟あり
松村由利子『耳ふたひら』

松村由利子の第四歌集耳ふたひら(2015年)に収められた一首です。

「長径」という見慣れぬ語が登場しますが、これは「楕円」に関わる用語です。

楕円には焦点が二つありますが、楕円の内部にその二つの焦点を通る直線を引いたものを長軸といい、長軸の長さを「長径」といいます。嚙み砕いていうと、楕円の中心を通る線のうち、最大となる線の長さのことです。

掲出歌では、「湾」が「楕円」に喩えられています。「湾というやさしい楕円」といういい方が魅力的です。

数学的な点から見れば、楕円は楕円であり「やさしい」も”やさしくない”もありませんが、「やさしい楕円」と表現されることで、途端にその楕円が何かを包み込んでくれるようなやわらかさをもった楕円であることが伝わってくるようです。「やさしい」の一語がとても効果的だと感じます。

湾を楕円に喩えた後に展開されるのは、「小舟」がゆく姿ですが、ここに「長径」が登場します。

「長径」と示されることで、小舟が湾のどのあたりを進んでいくのかがわかるようになっています。つまり湾の真ん中を、それも距離が長い方を、まっすぐに小舟が進んでいく様子が思い浮かびます。

「朝あさに」とあるので、この朝一度きりのことではなく、毎朝同じところをこの小舟はいくのでしょう。主体はそれを朝ごとに見つめているのです。

数学用語を取り入れながらも、決して硬さや機械的な様を感じる歌ではなく、むしろやさしさややわらかさを感じさせる歌であり、朝の光の中をいく小舟の光景が心地よく感じられる一首ではないでしょうか。

湾

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