これから短歌を始めたいけど、小学生くらいの子ども向けの短歌の入門書はないかなあ?
短歌の入門書はいろいろありますが、その多くは大人向けに書かれています。そんな状況の中で、子ども向けに書かれた短歌入門書というのはとても貴重だと思います。
今回紹介する松平盟子の『親子で楽しむこども短歌塾』は、本のタイトルの通り、親子で楽しみながら短歌を知ることができる一冊です。
ここでいう「こども」は特に何歳という設定はありませんが、小学生の作品が登場しますので、大体小学生くらいが対象になっていると思います。
子ども一人で短歌を学ぶというよりも、親子で一緒に進めていくのに適した本だと思います。
短歌とは何かから始まって、どうやってつくっていくかのヒントや方法が紹介されています。また投稿歌や、歌人の名歌などが多く取り上げられているので、歌を鑑賞することもできる一冊となっています。
当書を読み終える頃には、短歌のつくり方、読み方の両面で基礎ができあがるのではないでしょうか。
これから短歌を始めたいという小学生にはとてもおすすめの一冊です。また親子で短歌を始めてみたいという場合にも、この一冊はとても力強い味方となってくれるでしょう。
当書のもくじ
まずは『親子で楽しむこども短歌塾』のもくじを見てみましょう。
ご家族のみなさまへ
Ⅰ 短歌ってなぁに?
- リズムを持つ詩です
- 心を伝えられる詩です
- 昔の詩なのに新しい
- かなづかいは二つあります
短歌が生まれるとき 松平盟子の短歌創作ノート①
Ⅱ 短歌を楽しむ・短歌で遊ぶ
- 声に出して短歌を読んでみよう
- どんな言葉を選んだらいい?
- 短歌の半分、キミならどう詠む?
Ⅲ 短歌をつくってみよう ― ホップ・ステップ・ジャンプ
- 短歌の言葉って決まりがあるの?
- 短歌のテーマに選んでいいことと、わるいことはあるの?
- 短歌のリズムを楽しもう
- 固有名詞と数詞を使ってみよう
短歌が生まれるとき 松平盟子の短歌創作ノート②
Ⅳ みんながつくった短歌
- こどもがつくった短歌
- おとながつくった短歌
- 親子でつくった短歌
短歌が生まれるとき 松平盟子の短歌創作ノート③
Ⅴ 短歌の名作を味わってみよう
- 恋の歌
- 動物の歌
- スポーツの歌
- 食べ物の歌
- 学校の歌
- 親子の歌
- 季節の歌
- 外国の歌
- 戦争の歌
- 空想を広げた歌
- 百年前の歌
- 千年前の歌
短歌が生まれるとき 松平盟子の短歌創作ノート④
Ⅵ もっと短歌を楽しむ
- オノマトペ(擬音語)
- リフレーン(くりかえし)
- メタファー(たとえ・比喩)
あとがき
Ⅰでは、短歌とは何かという基本がわかりやすく書かれています。ⅡとⅢでは、さらに踏み込んで五七五七七に慣れるようにヒントやクイズなど、楽しめる要素が満載です。
ⅣとⅤは、歌の鑑賞で投稿歌や歌人の歌が多数取り上げられています。
最後のⅥは技法的な面として、オノマトペ、リフレーン、メタファーの3つが紹介されています。
「詠む」「読む」の両面がバランスよく配置された構成となっています。
おすすめのポイント
それでは、当書の特長やおすすめのポイントを順番に見ていきます。
子どもに向けて書かれている
当書の書名は『親子で楽しむこども短歌塾』ですが、その名の通り、子どもに向けて書かれているところがこの本の第一のポイントでしょう。
短歌とは何かを説明するとき、小難しいルールや技法、歴史を事細かに伝える方法もあります。しかし当書の対象は子どもであるため、いかにわかりやすく、いかに短歌の中核を伝えるかが大切になってくると思います。
もくじにもある通り、当書では「リズムを持つ詩」「心を伝えられる詩」であることが具体例とともに書かれています。また短歌が歴史の長い詩型であることについては、「昔の詩」に触れることで紹介されています。
全体を通して短歌とは何かが、子どもの目線に立って書かれているところがポイントだと思います。
歌が多く取り上げられていて、たくさんの短歌に触れることができる
一冊を通して、最初から最後まで歌が多く取り上げられているのが特徴です。
さまざまな歌、多くの歌に触れることは短歌の世界へより深く入っていくのにとても適していると思います。
「Ⅳ みんながつくった短歌」は、「明治書院 親と子の短歌募集企画」(2010年2月~4月)に応募された作品が計22首掲載されています。「こども部門」「おとな部門」「親子ペア部門」のそれぞれの受賞作が載っているので、各部門の違いを楽しむこともできるようになっています。
「Ⅴ 短歌の名作を味わってみよう」では、「恋」「動物」「スポーツ」など12のジャンルに対して、それぞれ2首ずつ歌人の名歌が紹介されています。それぞれの歌に対する著者のコメントが、その歌をどのように読めばいいかをサポートしてくれるので、この本から短歌を始めようという人にとってもわかりやすく、歌を鑑賞することができるようになっています。
これらの章だけでなく、他の章でも歌が取り上げられているので、この一冊を読むだけでかなりいろいろな短歌に触れることができるでしょう。
クイズや穴埋め形式により、自分で想像しながら考えるきっかけになる
「Ⅱ 短歌を楽しむ・短歌で遊ぶ」では、三択のクイズや、上句・下句を自分で想像して考える穴埋め形式によって、楽しみながら、短歌のつくり方を学んでいくことができるようになっています。
三択クイズはⒶ~Ⓖまで全部で7問ありますが、そのうちのひとつを見てみましょう。
Ⓐ( )包むみたいに紙おむつ替えれば庭にこおろぎが鳴く 吉川宏志
a 秋の花 b ハンバーガー c 虫かごを
括弧に入る言葉が何かを選択肢a~cから答えるクイズです。正解は当書を見てもらうとして、このようなクイズがあることで、楽しみながら短歌をひとつひとつ知っていくことができるでしょう。
クイズとは別に、「短歌の半分、キミならどう詠む?」では、取り上げられた歌の上句または下句が空欄となっていて、原作よりも素敵ないいまわしや表現ができるかどうかチャレンジできる工夫がされています。
対岸をつまずきながらゆく君の遠い片手に触りたかった 永田紅
上が原作ですが、次のようなかたちで再び書かれており、この歌の下句を考えてみましょうという問いかけになっています。
対岸をつまずきながらゆく君の______________________
このようなクイズや穴埋めを考えることで、短歌の詩型というものに慣れていくことと、自分の頭で想像するきっかけづくりがされているのが特徴的です。
※掲出歌のルビは当書に書かれていたもので、原作のルビの振り方とは異なります。
読み仮名がつけられている
子どもが読むことを想定して書かれているため、本文の漢字にはすべて読み仮名がつけられています。
親へ向けた最初の文章やコラムに当たる部分のみ読み仮名はありませんが、子どもが読む文章の漢字部分および取り上げられた歌の必要と思われる箇所にはつけられています。
これは「親子で楽しむ」ための工夫であり、漢字だけでもなく平仮名で書くのでもなく、漢字と読み仮名の組み合わせで書かれることにより、親も子も読みやすいようになっているのがポイントです。
カラーで読みやすい
本のつくりですが、カラー印刷されていて、大きめのサイズであるところも読みやすくとてもいいと思います。
しかも二色刷りではなく、赤、青、緑、オレンジ色など、カラフルに印刷されているので見やすく、何より読んでいてわくわくしてきます。
まとめ
『親子で楽しむこども短歌塾』を読むと得られること
- 子どもに向けて書かれているので、親子で一緒に楽しむことができる
- 多くの短歌が取り上げられているので、この一冊を読むだけでもかなりの短歌に触れることができる
- クイズや穴埋め形式により、自分で想像しながら考えるきっかけになる
- 漢字には読み仮名が振られているので、子どもでも読みやすい
- カラー印刷されていて、わくわく楽しみながら一冊を味わうことができる
当書は、親子で一緒に短歌について触れることができる一冊となっています。
また子どもひとりでも読めるように、本文の漢字に読み仮名が振られているところもうれしい点です。
短歌とは何かから始まり、クイズ形式で楽しみながら短歌のつくり方や読み方を知ることができます。そして何より多くの短歌が紹介されているので、いろいろな短歌に触れることができるでしょう。
これから短歌を始めよう、短歌って何だろうと気になる親子の方は、ぜひ当書から短歌を始めてみてはいかがでしょうか。
書籍・著者情報
書籍情報
著者 | 松平 盟子 |
発行 | 明治書院 |
発売日 | 2010年7月10日 |
著者プロフィール
歌人。1954年、愛知県生まれ。南山大学文学部国語国文学科卒。愛知県立高等学校に教員として勤務(国語科)。大学在学中にコスモス短歌会入会。77年『帆を張る父のやうに』で角川短歌賞を受賞。92年、歌誌「プチ★モンド」創刊、現在まで代表。98年、国際交流基金フェローシップにより、与謝野晶子研究(パリにおける足跡と文学的業績)のためパリ第7大学に留学。小学校~大学、カルチャーセンター等で短歌の実作・歴史及び魅力を伝えている。現代歌人協会理事。歌集に『シュガー』(砂子屋書房)、『プラチナ・ブルース』(同・河野愛子賞)、『たまゆら草紙』(河出書房新社)ほか多数。著書に『母の愛 与謝野晶子の童話』(アシェット婦人画報社)、『パリを抱きしめる』(東京四季出版)、『文楽にアクセス』(淡交社)など。
(当書著者略歴より)