短歌をつくりはじめて間もないんだけど、なかなかうまくつくれなくて…。いい歌をつくるには具体的にどうすればいいのかな?
短歌をつくりはじめて、とりあえず五七五七七の三十一音のかたちには整うようにはなったけれど、どうもうまくつくれていないと感じる人もいるのではないでしょうか。
自分がつくった一首を見てみると、読み上げたときに何となくぎくしゃくしているとか、単調な感じがするとか、見所がないような気がするなど、特につくりはじめて間もないころはいろいろと思うところが出てきます。
けれども、どこをどのようにすればもっと素敵な一首になるのか、わからないことが多いでしょう。そもそもそれがわかっていれば、よりよい一首に仕上がっているわけが、このあたりは適切なポイントを学んでいくのが近道かもしれません。
さて、今回紹介する俵万智の『考える短歌 作る手ほどき、読む技術』は、短歌をよりよい一首にするためのポイントをわかりやすく、具体的に教えてくれる一冊です。
添削例を取り上げて、つくるときに注意すべき項目を8回に分けてじっくり学ぶことができます。タイトルには「作るてほどき、読む技術」とありますが、どちらかといえば「作るてほどき」に重点が置かれた内容で、実作においていろいろと気づかせてくれる一冊です。
ぜひ当書を手にとって、よりよい短歌をつくるためのきっかけにしていただければと思います。それでは詳しく見ていきましょう。
当書のもくじ
まずは『考える短歌 作る手ほどき、読む技術』のもくじを見てみましょう。
はじめに
第一講 「も」があったら疑ってみよう
- 鑑賞コーナー① 必然性のある「も」
第二講 句切れを入れてみよう / 思いきって構造改革をしよう
- 鑑賞コーナー② 潔い句切れ
第三講 動詞が四つ以上あったら考えよう / 体言止めは一つだけにしよう
- 鑑賞コーナー③ 動詞を重ねるには
- 鑑賞コーナー④ 体言止めの実際
第四講 副詞には頼らないでおこう / 数字を効果的に使おう
- 鑑賞コーナー⑤ 数字の重み
第五講 比喩に統一感を持たせよう / 現在形を活用しよう
- 鑑賞コーナー⑥ 比喩の力
- 鑑賞コーナー⑦ 現在形の迫力
第六講 あいまいな「の」に気をつけよう / 初句を印象的にしよう
- 鑑賞コーナー⑧ 初句あれこれ
第七講 色彩をとりいれてみよう / 固有名詞を活用しよう
- 鑑賞コーナー⑨ 様々な色、それぞれの意味
- 鑑賞コーナー⑩ 固有名詞の効果
第八講 主観的な形容詞は避けよう / 会話体を活用しよう
- 鑑賞コーナー⑪ 主観をどう表現するか
- 鑑賞コーナー⑫ 会話の応用
全部で八つの講義が収録されており、各講義は「実践編」と「鑑賞コーナー」の二つから構成されています。
「実践編」は、季刊雑誌「考える人」(2002年夏号~2004年春号)に連載された内容が基になっています。「考える人」への投稿歌の中から、優秀作一首と、その他の歌の添削のポイントについて書かれています。
「鑑賞コーナー」は各講義の内容、特に添削のポイントについて理解が深まるように、歌人の歌をいくつか取り上げ鑑賞するコーナーとなっています。(中公文庫の『三十一文字のパレット』『記憶の色 三十一文字のパレット2』から大幅に加筆修正されて再録)
おすすめのポイント
それでは、当書の特長やおすすめのポイントを順番に見ていきます。
豊富な添削例から具体的にポイントを学ぶことができる
著者は「はじめに」で次のように述べています。
この「考える短歌」で、私が試みてみたいのは、短歌を作るうえでの「言葉の技術」をどこまで伝えられるか、ということだ。そのためには、抽象的な理屈を並べるのではなく、なるべく具体的な方法をとりたい。
はじめに
ここでいう具体的な方法が「添削」なのです。
「もくじ」を見てもらえばすぐにわかりますが、当書は第一講から第八講の8つの章にわかれており、各章にはそれぞれ短歌をつくる際に気をつけるべきポイントが取り上げられています。
各章で取り上げられる歌は、雑誌への投稿歌です。各章複数の歌が取り上げられ、それぞれに添削例が記されています。
第一講「「も」があったら疑ってみよう」の最初は次のような添削がされています。元歌と添削後の歌を並べて見てみましょう。
冷蔵庫のシチューも食べ終え君のいた証拠がついに消えたこの部屋
冷蔵庫のシチューを食べ終え君のいた証拠がついに消えたこの部屋
そして著者は次のように解説します。
…「ついに」という語があるので、いろいろあった証拠が消えていったのだなということは、想像できる。ならば、この「も」を「を」にしたほうが、シチューという効果的な言葉が、より際立つのではないだろうか。
このように具体的に歌が示され、それに対する説明が続くので、実践的に「も」の使い方を身につけていくことができるようになっています。第二講以降も同様に進んでいき、常に具体的であるところがいいところです。
豊富で具体的な添削例によって、各章のポイントを実戦形式で学ぶことができる点がおすすめだと感じます。
短歌づくりのポイントに関連した歌に触れることができる
各章は添削コーナーと鑑賞コーナーにわかれていますが、鑑賞コーナーは各章のポイントに関連した歌が取り上げられている点もとてもいいと思います。
例えば第一講であれば「「も」があったら疑ってみよう」となっていますが、まずは「も」を使う際の注意点を添削コーナーで見ていきます。そしてその後、鑑賞コーナーで「必然性のある「も」」ということで、「も」を効果的に使った歌を見ていく流れになっています。
これら二つのコーナーの連携によって、より一層各章のポイントを身につけることができるように工夫されています。
ちなみに第一講の鑑賞コーナー①で取り上げられている歌のひとつを見てみましょう。
スカーフの赤も暮色に鎮まれば二人の舟を岸に漕ぎ寄す (栗木京子)
「スカーフの赤も」の「も」が第一講のポイントに関連します。効果的な「も」を使った歌としてはこの歌を含め3首紹介されています。鑑賞コーナーはただ単に歌が並べられて提示されるだけではなく、それぞれの歌について、どのような理由で「も」が効果的であるかが詳しく書かれています。
鑑賞コーナーでは、有名な歌からそうでない歌までさまざまに取り上げられているので、新たな歌との出会いを楽しむこともできるでしょう。
文章がわかりやすく読みやすい
大切なことですが、文章がわかりやすく読みやすいというのも当書のいいところだと思います。
いくらいい内容が書かれていたとしても、読みづらい文章でわかりにくければ、読み手にとってはなかなか頭に入ってきません。
しかし当書は章立てが整理されており、また各章は添削と鑑賞コーナーで進んでいくという流れも最初から最後まで同じでわかりやすくなっています。
そして何より読みやすく、すっと読み進めることができます。これは著者の語りかけるような文章によるところが大きいのですが、元々は講義として行われたものをベースに編まれた本であるため、いかにわかりやすく伝えるかという点が考慮されているのも要因のひとつでしょう。著者のちょっとしたエピソードなども交えられており、楽しく読むことができます。
新書という形式も肩肘をはらずに読むことができ、内容を振り返りたいときにすぐに手にとることができるのもいい点です。
まとめ
『考える短歌 作る手ほどき、読む技術』を読むと得られること
- 添削例がたくさん載っているので、具体的にポイントを学ぶことができる
- 各章のポイントに関連した名歌、有名歌に触れることができる
- 文章がわかりやすく読みやすいので、内容が頭に入りやすい
「詠む」と「読む」でいえば、当書は「詠む」方、つまり短歌づくりに焦点を当てた一冊です。
もちろん歌人の歌を鑑賞するコーナーもありますが、それも鑑賞中心というよりは、実作のための鑑賞となっています。
ですから、短歌をつくる際のポイントを知りたい人、よりよい一首をつくるにはどうすればいいか悩んでいる人にとって、特におすすめの一冊となっています。
当書の第一講から第八講までを読めば、短歌づくりにおいてきっと新たな気づきがあることでしょう。
一冊読み終えるころには、もっともっと短歌をつくりたい、しかもいい一首をつくりたいという思いがさらに湧き上がってくること間違いなしです。
書籍・著者情報
書籍情報
著者 | 俵 万智 |
発行 | 新潮社(新潮新書) |
発売日 | 2004年9月20日 |
著者プロフィール
1962(昭和37)年、大阪府生まれ。歌人。早稲田大学で佐佐木幸綱氏の影響を受け、短歌を始める。86年、角川短歌賞を受賞。88年、現代歌人協会賞を受賞した。歌集に『サラダ記念日』『チョコレート革命』などがある。
(当書著者略歴より)