Googleの地図に賀茂川くだってくやがてあなたの母校が見える
千種創一『砂丘律』
千種創一の第一歌集『砂丘律』(2015年)に収められた一首です。
賀茂川は京都を流れる川ですが、鴨川より上流に位置するところを賀茂川と呼びます。
主体は、「Googleの地図」、すなわちGoogle Mapを見ているのでしょう。Google Map上に表示された賀茂川を上流側から下流側へ目で追いながら下っていっているのだと思います。
地図を目で追いながら下っているとはいっても、家の中に籠ってGoogle Mapを眺めている場面ではないと思います。Google Mapを表示させたスマホを片手に、実際に賀茂川を自分の足で歩いているところでしょう。
賀茂川を下っていくと「やがてあなたの母校」が見えたわけですが、これもGoogle Map上で母校の場所がわかったということはもちろんですが、実際に母校が見える位置にたどり着いたということでしょう。
上句から下句へ移るときに感じるのは、地図から実物へのスムーズかつ立体感を伴う移行です。上句はどちらかといえばGoogle Mapが中心となって展開されているように感じますが、下句で「あなたの母校」が見えた瞬間は、主体の視線はGoogle Map上にはすでになく、「あなたの母校」が姿を現した現実が立体感をもって迫ってきます。
このように感じる理由は、「Googleの地図に」の「に」によるところが大きいと思います。ここが”Googleの地図を片手に”のようになっていれば、Google Mapは脇役に徹し、最初から実際の賀茂川を歩いているシーンを思い浮かべるでしょう。しかし、「Googleの地図に」となっていることで、上句ではGoogle Mapが展開の中心に据えられているように感じます。それが下句へ移るタイミングで実際の景に展開するところが読ませどころなのではないでしょうか。
「あなたの母校」が見えた瞬間の喜びや安堵などさまざまに混じり合った感情とともに、「あなたの母校」の存在が前面に迫ってきて、存在感の大きさを感じさせるところに惹かれる一首です。



