Googleが教えてくれる最短の経路をあみだみたいにすすむ
岡本真帆『水上バス浅草行き』
岡本真帆の第一歌集『水上バス浅草行き』(2022年)に収められた一首です。
目的地まで進もうとしたとき、かつてはそれが車であれ、徒歩であれ、紙の地図を見ながら向かっていたのではないでしょうか。
Google Mapが登場してから、目的地に向かうのに迷うことがなくなりました。Google Mapを開いて目的地を設定すれば、現在地から目的地までの経路を教えてくれるからです。Google Mapでは現在地は常に最新状態で表示されるため、紙の地図のように回転させたり、この建物があるから今この辺りなどと考えたりすることもなく、ただただGoogle Mapが示してくれる表示に従っていけば、やがて目的地にたどり着くことができます。
例えば、地下鉄の駅から地上に上がった場合、一体自分はどちらの方角を向いているのかわからなくなるときがありますが、そのようなときでもGoogle Mapがあれば安心です。自分の向きがわかるのはもちろん、反対方向に進んでしまった場合でも、Map上で現在地の自分が反対方向に移動するため、間違った方向に進んでいることがすぐにわかるようになっています。
しかも「最短の経路」を示してくれるので、時間短縮にもつながり、コストパフォーマンス重視の現代にとってはとても有効だといえるでしょう。
さて、掲出歌では「最短の経路」が示されたわけですが、その経路がジグザグしていて、まるで「あみだ」くじのようだと詠われています。
この最短経路は、おそらくGoogle Mapがなければ通らなかったであろう経路であり、裏道や横道、地元の人しか知らないようなマニアックなルートが含まれているのかもしれません。
主体はこの経路を進むことを困っているというわけではなく、割とフラットな気持ちで指示された通りに進んでいるのかもしれませんが、あみだみたいになっているところをやや楽しんでいる部分もあるのではないかと感じます。
Google Mapを見ずに自分の思うままに歩くという楽しみがある一方で、Google Mapを見たから知った経路を歩く楽しみというのもあるでしょう。
情報技術の進化は、我々の生活にさまざまに影響していますが、どうせなら、その影響をいい方に捉えて楽しんでいければいいのではないかと、そんなことを感じさせてくれる一首です。



