観覧車は二粒ずつの豆の莢春たかき陽に触れては透けり
杉﨑恒夫『パン屋のパンセ』
杉﨑恒夫の第二歌集『パン屋のパンセ』(2010年)に収められた一首です。
観覧車のゴンドラひとつひとつを「豆の莢」に喩えた歌ですが、その発想が独特で、遊具としての観覧車ではなく、そこから別の世界へ連れてくれる、そんな歌ではないでしょうか。
「豆の莢」は具体的に「二粒ずつ」という豆の数が提示されています。ゴンドラという豆の莢には、ひとつではなく二つの豆が収められているのです。それは向かい合う二人の人物が乗っている様を想像させてくれるのではないでしょうか。
二人が乗っているゴンドラが「二粒ずつの豆の莢」に転換されることで、途端にメルヘンのような世界が立ち現れるように感じます。
「春たかき陽」から春のあたたかな様子が浮かびあがってきて、豆の莢であるゴンドラは、その春の陽に照らされているのでしょう。「触れて」という表現が丁寧で、「透けり」からは、ゴンドラが透明感をもっていく様子が見てとれます。
いずれにも「二粒」をもった「豆の莢」が回り続ける観覧車。
機械的な観覧車ではなく、やわらかで楽しい観覧車を想像でき、印象に残る一首です。