エレベーターの人数が奇数になって空に向かっていく晴れた日の朝
フラワーしげる『ビットとデシベル』
フラワーしげるの第一歌集『ビットとデシベル』(2015年)に収められた一首です。
何気ない日常の場面を切り取った歌ですが、何となく不思議な感じのする歌だと思います。
それは「奇数になって」という表現にあるのでしょう。
奇数であることがわかっているということは、主体は具体的な人数を把握しているはずです。もし人数を把握していないのであれば、エレベーターに乗っている人の数が奇数か偶数かわからないはずでしょう。
3人なのか、5人なのか、あるいは13人なのか、具体的な人数を把握しているにも関わらず、あえて具体的な数を提示せず、「奇数」という表現で詠っているところに不思議な印象を受けるのかもしれません。
奇数か偶数かというのは、いってみれば二択であり、具体的な人数を表すよりもかなりアバウトな数の提示の仕方といえるでしょう。
偶数であればペアが生まれるわけですが、奇数の場合はペアを組んだとき、必ず一人余る人が出てくるわけです。そういう意味においては、偶数よりも奇数の方が、何となくアンバランスな感じというか、ぴったり収まっていない感じというか、そのようなイメージで捉えてしまうのではないでしょうか。
ぴったり収まらないということから、何かそこから次の展開が始まるような気もします。
この「奇数」というのは具体的に数字が示されているわけではないため、何人であるかはわかりませんが、エレベーターに乗れる範囲の人数を指しているのでしょう。ひょっとすると主体一人になってしまった状況を指しているのかもしれません。
奇数の人数となって、空の方へ向かって昇っていくエレベーター。「晴れた日の朝」という状況とも相まって、そこから生まれる物語を自由に想像してみるのも楽しいのではないでしょうか。

