草の実の赤くこぼれて原稿を夢の中では夢のように書く
堂園昌彦『やがて秋茄子へと到る』
堂園昌彦の第一歌集『やがて秋茄子へと到る』(2013年)に収められた一首です。
緑の草と、その赤い実の対比が鮮明でありながらもやわらかに描かれています。
そして初句・二句を受けての「原稿を夢の中では夢のように書く」という表現に惹かれます。原稿を書く夢を見ることはあるでしょうが、その夢の中で原稿を書く行為は「夢のように」行われるというのです。
夢の入れ子のような感じを受けますが、何とも捉えどころのないふわっとしたイメージが手渡されるように思います。この原稿には、何かが書かれたのでしょうか。いや、書かれてはいるのでしょうが、まさに「夢のよう」なものがそこには書かれているようです。
夢のように書かれたあとの原稿の光景が広がるとき、原稿に書かれた内容の不確かさに対して、草の実が赤くこぼれる色彩がかえって心にじわじわと響いてくる一首だと感じます。