補色の歌 #7

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補色の短歌

草笛を青年僧が鳴らしをり紅き法衣のまま寝ころびて
光森裕樹『鈴を産むひばり』

光森裕樹の第一歌集『鈴を産むひばり』(2010年)に収められた一首です。

歌集『鈴を産むひばり』においては「雷龍に乗る」という一連の中の歌です。

「雷龍」の国とはブータン王国を指します。掲出歌は、ブータン王国を訪れた際の情景を詠んだ歌です。

主体は、青年僧が寝転んでいる姿を、その旅の途中で見かけたのでしょう。寺院か仏塔の傍か、はたまたまったく関係のない路上でしょうか。とにかく、青年僧が寝転んでいたのです。ここは老年僧でもなく、少年僧でもなく、「青年僧」。また、ただの青年でもなく、青年の「僧」なのです。ここにひとつの具体があり、年齢はもちろん、その青年の職業、生活までもが見えてくるようになっています。

その青年僧は、草笛を鳴らしているのですが、寝転んで、鳴らしているのです。しかも紅い法衣を纏ったまま鳴らしtいるのです。

場面の説明はこれだけといえばこれだけであり、それ以外この歌から状況を読み取れる言葉はありません。

しかし、ここで注目したいのは、その色彩です。つまり「草笛」の緑色と、「法衣」の紅色です。

歌を上句から読んでいったとき、草笛の緑色を意識の片隅に置きながら読み進むと、法衣の紅色が現れるため、この法衣の紅色がとても鮮やかに脳裏に表れます。同時に、法衣の紅色が登場することで、一方の草笛の緑色がより一層際立ってイメージされます。

青年層の背格好や顔つきなどは言及されていません。しかし、「紅き法衣」をまとったまま寝転んでいる、そして「草笛」を鳴らしているという補色の構図が視覚に訴えてきて、青年僧の姿までありありと立ち上がってくるような一首ではないでしょうか。

青年僧の鳴らしている草笛の音は、一体どのような音だったのでしょうか。やわらかな音だったのでしょうか。青年僧の悩みを映し出すような、儚げな音だったのでしょうか。あるいは、誰にも真似することができないほどの、とても美しい音だったのでしょうか。

音の詳細までは描かれていませんが、その分読み手は自由に、草笛の音を想像することが可能です。それは、青年僧が鳴らしているという状況も重要であり、そのときその場面にいた青年僧が鳴らしていたからこその音色というものがあるはずです。実際、その草笛の音を聞いたのは主体ですが、読み手は、この一首を通して、草笛の音を想像する自由を与えられているのです。

旅先の一コマである歌であり、ともすれば見過ごしてしまいそうな、特別な出来事の起こらない場面かと思いますが、その色彩と相まって印象に残る一首だと感じます。

青年僧・夕日
青年僧
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