交差点 赤と緑のシグナルで好きはいつでも互い違いだ
toron*『イマジナシオン』
toron*の第一歌集『イマジナシオン』(2022年)に収められた一首です。
街中で見かける補色で最も目につくものといえば、歩行者用信号機の「赤」と「緑」ではないでしょうか。
掲出歌は、歩行者用信号機の赤と緑を色彩を、「好き」という感情の行き違いに喩えています。
恋愛や結婚において、「好き」という感情がすれ違わずにかみ合えば、これほど幸せなことはありません。しかし「好き」あるいは「嫌い」という感情は、なかなか自分が思う通りにいかないのが現実です。
「好きはいつでも互い違いだ」という言い切りの表現が、お互いがすれ違ってしまっている状況を強く表しています。「赤と緑のシグナル」は補色の効果をもって、すれ違いの状況を強めています。そして「交差点」という分岐や選択を迫られる場所も、「互い違い」に一役買っているでしょう。
さて、歩行者用信号機は赤と緑の補色の効果があると述べましたが、実際はひとつの信号機において赤と緑が同時に点灯することはありません。赤が点灯している間、緑は消えており、逆に緑が点灯している間、赤は消灯しています。
赤と緑を自分と相手だとしたとき、補色の対比であっても両方点灯していればまだマシな方かもしれません。片方が点灯している間、もう片方は消灯しているなら、共有する時間はまったくなく、むしろより一層「互い違い」感が出てしまっているのではないかと感じます。
歩行者用信号機が登場することで補色の対比効果を超えたすれ違いを思わせ、「好き」の行き場所が見つからずにどこまでも漂ってしまっている、そんな様がよく伝わってくる一首になっているのではないでしょうか。