草わかば色鉛筆の赤き粉のちるがいとしく寝て削るなり
北原白秋『桐の花』
北原白秋の第一歌集『桐の花』(1913年)に収められた一首です。
草原に寝転がり、ナイフで色鉛筆を削っている場面を詠んだ歌です。
初句で「草わかば」という春の緑色がまず登場し、二句・三句で「色鉛筆の赤き粉の」と今度は緑色の補色に当たる赤色が現れます。
読者は緑色を思い浮かべ、すぐさまそこに赤色を思い浮かべるため、互いの色が引き立ち、色彩的に鮮やかな景を思いながら一首を読むことができるのです。
四句・結句の「ちるがいとしく寝て削るなり」という表現から、春の清々しさ、そして主体の心の穏やかさなどが伝わってきて、上句の色彩の鮮やかさをうまく和らげて一首を着地させているように感じます。
掲出歌は緑と赤の対比がとても鮮やかで、視覚的なイメージを強く伴った一首であり、補色効果を最大限に活かした一首といえるのではないでしょうか。
補色とは?
色相環で正反対に位置する関係の色の組合せのことで、余色、対照色、反対色などとも呼ばれます。例えば、赤と緑、黄と紫、橙と青など。補色の効果として、互いの色を引き立て合う相乗効果があります。