さて義務をはたさなきゃコーヒーを買いさて義務をはたさなきゃコーヒーを飲んだら
永井祐『日本の中でたのしく暮らす』
永井祐の第一歌集『日本の中でたのしく暮らす』(2012年)に収められた一首です。
この歌の「義務」は仕事、「コーヒー」は缶コーヒーを想像しました。
仕事中の昼休みか休憩時間に缶コーヒーを買って飲んだ場面を切り取っているのではないでしょうか。
休憩は時間が短く、コーヒーを買って、あまり味わう余裕もなく飲み干したら、再び仕事に戻らなければならない、そんな場面かと思います。
「さて義務をはたさなきゃ」が二回繰り返されています。これを挟むように「コーヒーを買い」と「コーヒーを飲んだら」が対のように置かれています。
この言葉の並びのテンポやリズムが淡々としていることから、義務をはたすしかない状況がよく表れていると思います。義務を放棄することもできず、義務と義務の間にすることといえば、コーヒーを買って飲むことだけ。
自分の意思をそこに反映させるわけでもなく、ただ単に決められた仕組みや時間に従うしかない様子が浮かんできます。「義務」と「コーヒー」の繰り返しはこの日一日だけのことではないでしょう。結句の「飲んだら」は再び初句の「さて義務を」に戻っていき、この一首はずっとループしているような歌だと感じます。
知らず知らずのうちに、決められたサイクルに組み込まれ、そのサイクルを日々繰り返すという様は、考えれば考えるほど怖ろしいことではありますが、そのような怖さもが垣間見える一首だと感じます。