手を腰にやってコーヒー牛乳を飲んではみても傷もつ心
工藤吉生『世界で一番すばらしい俺』
工藤吉生の第一歌集『世界で一番すばらしい俺』(2020年)に収められた一首です。
腰に手をあててコーヒー牛乳を飲む場面で真っ先に思い浮かぶのは、銭湯です。
瓶入りの牛乳やフルーツ牛乳、コーヒー牛乳などが、銭湯で売られていた光景を思い出します。風呂あがりに飲むと本当においしいですね。
そのときのスタイルはやはり腰に手をあてて、一気に飲み干すイメージがあります。
さて掲出歌は、銭湯かどうかはわかりませんが、「手を腰にやってコーヒー牛乳」を飲んでいる場面です。
傍から見ると、手を腰にやって飲む姿は様になるわけですが、実際のところその本人の心の中までは見通すことはできません。
この歌でコーヒー牛乳を飲んだ人物は「飲んではみても傷もつ心」からわかる通り、心に傷をもっているのです。
コーヒー牛乳はどのように飲んでもいいでしょう。手を腰にやって飲んでもいいし、背を丸めて飲んでもいいし、隠れて飲んでもいいし、知り合いとシェアしながら飲んでもいいでしょう。しかしどのような飲み方をしても、それは他者からの見え方が変わるだけで、飲み方によって本人の心の中が劇的に変化するということはないことを表しているように思います。
外と内との差を、コーヒー牛乳というアイテムによって、他者の視点を取り込みながら表現している一首です。「飲んではみても」の部分に、簡単には変えることのできない心の傷の痛々しさがとてもよく表れており、印象に残ります。