チョコレートの歌 #6

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チョコレートの短歌

失った季節はとおい 融点を超えるとチョコはかたちをなくす
伊波真人『ナイトフライト』

伊波真人の第一歌集ナイトフライト(2017年)に収められた一首です。

季節や時間というものは一方通行で、再びそれを取り戻そうとしても取り戻すことができません。

しかし、取り戻せないからこそ季節や時間にはとても価値があるともいえます。

掲出歌は、そのように貴重な季節を詠っていますが「失った季節はとおい」ものとして捉えられています。季節が取り戻せないということと呼応するものとして、融点を超えたチョコレートが登場します。

昨今チョコレートは、チョコレート専門店がさまざま現われていますが、味はもとより見た目の美しさも人気を左右します。かたちを保ったチョコレートはその美しさを湛えて、存在そのものに心奪われますが、「季節」もまたこれと同様な位置づけであるということなのでしょう。

かたちある季節、確かな手触りのある季節、そこに存在したと確信できる季節は、充実感を伴ったものでしょう。しかし、ひとたびそのかたちが崩れてしまった季節は、融点を超えて溶けてしまったチョコレートと同じように、美しさを失ってしまった存在となってしまうのです。

チョコレートの見た目の滑らかさは、固形の状態よりもむしろ溶けている状態のほうが感じられますが、その滑らかさがかえって、失ってしまった季節と重なり、切ない思いを読み手に与えます。

滑らかであるがゆえの切なさが宿る一首だと感じます。

溶かしたチョコレート
溶けたチョコレート

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