ガーナ人の先生がくれしガーナチョコ味はひ深きを言ふ日本語で
大口玲子『自由』
大口玲子の第七歌集『自由』(2020年)に収められた一首です。
ガーナ人の先生がくれたガーナ産チョコレートを味わったときを切り取った一首です。
歌集では、この歌の前に次の二首が置かれています。
二泊三日を英語キャンプに過ごしたる息子帰りきてしばらく無言
ああいいね日本語が話せるつていいね夕べ晴れ晴れと息子言ひたり
これらの歌は生活を通して、英語と日本語という言語に注目しています。思いを口にするとき、英語で話すか、日本語で話すかどちらを選ぶのかは、場面や状況にもよるでしょう。
けれども、それ以上に、伝えたい思いを表現するのにどちらの言語が適しているかの方が大切になってくるのではないでしょうか。
掲出歌では「味はひ深きを言ふ日本語で」と詠われています。ガーナチョコを味わったときの味わい深さを伝えるのに「日本語」が適していた、また「日本語」で伝えたかったのではないかと思います。結句の「日本語で」という部分にそれが表れているでしょう。
ガーナ人の先生がくれたこと、それがガーナチョコであったこと、味わい深かったこと、それらすべての重なり合わせの結果として発せられる思いは、この場面においては英語よりも日本語がふさわしかったということだと思います。また下句のゆったりとした言葉の流れが、味わい深さと呼応するように感じます。
思いを言葉にするとき、そのときの思いを最も伝えてくれる言語は何なのか。複数の言語を話せる場合、言葉を発するたびに言語の選択を迫られるということを考えさせられる一首です。