くちばしを開けてチョコボールを食べる 机をすべってゆく日のひかり
永井祐『日本の中でたのしく暮らす』
永井祐の第一歌集『日本の中でたのしく暮らす』(2012年)に収められた一首です。
森永製菓のチョコボールの開け口は「くちばし」と呼ばれています。黄色い「くちばし」には金のエンゼル、銀のエンゼルが描かれていることがあり、金なら1枚、銀なら5枚集めると、おもちゃのカンヅメがもらえます。
1965年に発売されて以来、子どもから大人まで人気のベストセラー商品です。
さて掲出歌は、そんなチョコボールを食べる場面の、本当に何気ない日常を詠っています。
チョコボールはくちばしを開けて食べるのが普通の食べ方なので、くちばしについていわなくてもわかるのですが、あえて「くちばしを開けて」と表現しているのです。
あえて字数をかけて表現することで、チョコボールを食べる行為により焦点が集約されていくように感じます。
また「日のひかり」が「机をすべってゆく」光景もとても穏やかです。チョコボールはスーパーマーケットで買えるお菓子です。高級チョコレートではありませんが、この歌の場合、かえってそれがいいのでしょう。
チョコボールを食べるという小さな幸福感が存分に感じられる一首です。