チョコレートの歌 #15

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チョコレートの短歌

銃撃戦がとくに好きってわけじゃない土の匂いのチョコレート嚙む
平岡直子『みじかい髪も長い髪も炎』

平岡直子の第一歌集みじかい髪も長い髪も炎(2021年)に収められた一首です。

上句の感情と下句の行動の二つのパートから構成される歌ですが、どちらが先に発生したのかを考えはじめると深みにはまってしまいそうな歌だと感じます。

まず上句から見ていきますが、ここでいう「銃撃戦」は、実際の銃撃戦でしょうか、それともシューティングゲームのような現実ではない銃撃戦を指すのでしょうか。実際の銃撃戦はあまりにも日常から遠い位置に存在しており、ゲームの銃撃戦であれば少し身近な存在となりますが、これは明示されていないので、どちらにも想像できると思います。しかし「ゲーム」という言葉も登場しないので、現実に起こりうる「銃撃戦」を指していると捉えておきたいと思います。

そんな「銃撃戦」が好きではないと詠われています。「とくに」「わけじゃない」というのもポイントで、はっきり”嫌い”といっているわけではなくて、「好き」の否定で表現しているところに、また断定を若干避けるようないいぶりに、微妙な思いが揺らめいているように感じます。ただし、なぜ好きではないのかの理由は明らかにされていません。

もしも、この上句だけが提示されていれば、それほど深く考え込まずに済みそうですが、下句「土の匂いのチョコレート嚙む」が組み合わさることで、上句が途端に何か意味をもっているのではないかというふうに感じてくるのです。

さて、下句は「チョコレート」を食べた場面ですが、「土の匂いの」というところがキーポイントで、これによってただのチョコレートではなく、何か意味ありげなチョコレート、または読み手が意味を深く探っていってしまいそうなチョコレートがここには示されているように思います。

チョコレートの原料であるカカオは農園で収穫されるわけで、土との親和性を想像することはできますが、実際チョコレートとして加工された後に「土の匂い」を感じることは少ないでしょう。あるいは本当に「土の匂い」をさせているチョコレートがあるのかもしれませんが、ここではそれよりも、上句の「銃撃戦」の土埃のイメージがより強く働いているように感じます。

下句に「土の匂い」が登場することによって、上句の「銃撃戦」とリンクさせて読んでしまうわけですが、ここに落とし穴があって、論理的な道順を追ってこの歌を解釈しようとすると失敗するように思えてきます。

銃撃戦が好きってわけではないから、土の匂いのチョコレートが導き出されたのか、逆にチョコレートに土の匂いを感じたからこそ、銃撃戦が想起されたのか、その因果関係を追求することはあまり意味がないように感じます。意味がないというよりも、追求することがこの歌の世界を広げる読み方にはならないような気がするからです。

この歌は上句も下句もまるごと同時に味わう、また銃撃戦、土、チョコレートの色における共通性を介して、その世界の雰囲気を味わうのがいい歌なのでしょう。うまくいえませんが、これら共通的なイメージから浮き上がる世界が感じられればいいのではないかと思います。

一点、強いていうならば「嚙む」には、自ずとそうなったという感じはなく、意思の表れがそこにはあるように思います。”食べる”ではなく「嚙む」なのです。ここにこの歌を解くヒントがあるように思いますが、ここにも深入りすると抜け出せないような感じがするので、言葉通り素直に受け取っておきましょう。

チョコレートの歌として取り上げましたが、読み手がさまざまに想像できる余地をもった歌で、不思議と惹かれる一首です。

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