掛け紙もリボンも金色 初売りのモールの店にゴディバを選ぶ
鯨井可菜子『アップライト』
鯨井可菜子の第二歌集『アップライト』(2022年)に収められた一首です。
「二〇二二年一月一日(土)群馬の夫の実家へ」と詞書にありますが、夫の実家への手土産として「ゴディバ」をもっていったのでしょうか、それとも一旦実家へ着いてからモールへ出かけ「ゴディバ」を購入したのでしょうか。いずれにしてもモールでゴディバを買ったことは確かでしょう。
ゴディバ(GODIVA)はベルギーに本社を置く有名な高級チョコレートメーカーですが、チョコレートのほかにもクッキーやケーキ、アイスなどを取りそろえています。
掲出歌ではチョコレートとは書かれていませんが、ここではゴディバの主軸といえるチョコレート、あるいはチョコレートが多めに含まれた商品として採っておきたいと思います。
現在はチョコレート専門店も多く見られるようになり、チョコレートといえば「ゴディバ」一択というわけではなく、さまざまな店からお気に入りを選ぶことができるようになりました。
しかし、「ゴディバを選ぶ」とあり、主体はゴディバをはっきりと選択した様子が窺えます。「初売り」で「掛け紙もリボンも金色」ですから、とても華やかでおめでたい印象を受けます。さまざまある店の中から、チョコレートを、そして「ゴディバ」を選んだところに、一月一日の主体の意思が表れているのではないでしょうか。
一年の初めは気分よくスタートさせたいものですが、この「ゴディバを選ぶ」という行動は主体にとっては年の初めの選択としてふさわしいものだったのではないかと感じます。
購入したゴディバが誰かにあげるものだったとしても、「ゴディバを選ぶ」という選択自体は自分自身のものであり、その選択は決してひとりよがりな頑固なものではなく、ほどよい強度をもち合わせた選択なのではないかと思います。
「一月一日」の「初売り」という状況が、より一層”選択”に意味を含ませているように感じさせる一首ではないでしょうか。