空白の歌 #2

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空白の短歌

さくらからさくらをひいた華やかな空白があるさくらのあとに
荻原裕幸『リリカル・アンドロイド』

荻原裕幸の第六歌集リリカル・アンドロイド(2020年)に収められた一首です。

桜の季節になると、桜の名所を訪れる人は多く、また花見をする人もおり、桜という花は多くの人の注目を集める花だなと感じます。しかし、それは本当に桜を見ることが目的なのでしょうか。どちらかというと桜そのものというよりも、桜の咲いている季節の雰囲気を味わおうとしているのかもしれません。

掲出歌は、桜の季節が終わった後の場面でしょうか。すでに桜は散ってしまい、元々桜があった場所には「空白」がある、そんな状況を想像しました。

「さくらからさくらをひいた」という表現も魅力的ですし、何よりその後に続く「華やかな空白」という部分にとても惹かれます。「華やかな」という修飾が「空白」を色彩のあるものに転化していると感じますし、この空白は桜の残像のようなものが滲み出ている空白なのだと思います。

空白というのは何もないということではなく、時には存在感を放つ空白というものがあることを教えてくれる一首です。

この歌において、三回繰り返される「さくら」という言葉は煩わしくなく、むしろリズムを整える上で効果的に感じます。

ひとたびこの一首を知ってしまえば、桜が終わった後に桜の木を見上げるとき、桜色を帯びた空白の華やかさを思い出さずにはいられないことでしょう。

さくら
さくら

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