空白をさらに大きな空白で埋めて宇宙はいま伸び盛り
松木秀『5メートルほどの果てしなさ』
松木秀の第一歌集『5メートルほどの果てしなさ』(2005年)に収められた一首です。
宇宙には果てがないとはよくいわれることですが、果てがない状況を想像するのはなかなか難しいものです。
通常、われわれが目にしている物体のほとんどは境界があり、有限の大きさから成るものでしょう。
宇宙はこれら日常で見るものとは異なる存在なのです。子どものころ、宇宙の果てを考え続けると訳がわからなくなり、怖くなった記憶があります。
さて掲出歌は、宇宙の膨張を「空白」という言葉で捉えた一首です。宇宙が成長し続けている様子を、「空白」を「さらに大きな空白」で埋めるという表現で読み手に伝えてくれています。
空白を大きな空白で埋めるという表現は、何となくわかったような気にさせられます。少なくとも、宇宙の膨張や果てを取っ掛かりなしで想像するよりもはるかにイメージしやすいといえるでしょう。二回登場する空白ですが、それらの大きさの差がうまく効いているのではないでしょうか。
宇宙の時間は途方もないものですが、宇宙の終焉であるビッグクランチが訪れるまでは、宇宙はこれからも「伸び盛り」なのです。