自転車の歌 #4

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自転車の短歌

自転車に乗ってるオレと目が合ってボール蹴るのをやめた少年
工藤吉生『世界で一番すばらしい俺』

工藤吉生の第一歌集世界で一番すばらしい俺(2020年)に収められた一首です。

自転車に乗っている「オレ」は、堤防かどこかを漕いでいる場面でしょうか。自転車に乗りながら、堤防から、グラウンドを眺めている、そんな場面かもしれません。

ボールを蹴っている少年は、友人たちとサッカーか何かをしていたのでしょうか。それとも、ひとりでボール遊びをしていたのでしょうか。

少年がボールを蹴るのをやめたのはたまたまかもしれませんが、「自転車に乗ってるオレと目が合って」というタイミングで、ボールを蹴ることをやめたのは間違いなさそうです。

「オレ」にとっては、なぜ目が合った直後にボールを蹴るのをやめたのだと疑問が湧いてきます。

ひょっとして「オレ」自身に何か原因があり、ボールを蹴るのをやめさせる、あるいはボール蹴りをやめざるを得ない何か異様なものが伝わったのではないかなどと考えてしまうでしょう。目が合ったときの少年の顔は一体どんな顔をしていたのでしょうか。怖れを抱いている顔でしょうか、困惑している顔でしょうか、あるいは無表情だったのでしょうか。

出来事というのは、どこかしらそれが起こった原因や理由を求めてしまうものです。少年がボールを蹴るのをやめたことと、目が合ったことは直接関係がなかったのかもしれません。本当に偶然、少年がボールを蹴るのをやめようと思っていたタイミングと、目が合うタイミングとが一緒になっただけかもしれません。

しかし、この歌においてはタイミングがあまりにもあまり過ぎるくらい合致してしまっているのです。

ここに存在するのは、自転車に乗っている「オレ」、ボールを蹴るのをやめた少年、互いに目が合っている状態という事実だけです。でも、この事実が述べられた短歌から、二人の空間に起こったさまざまな感情を想起させてしまうのです。

目が合った直後に蹴るのをやめた少年の立ち尽くす様子と、「オレ」のなぜやめるんだという思いが、いつまでも二人の空間に残り続けるようであり、時間が停止してしまったかのような感じがとてもよく表れた一首だと感じます。

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