次の歌の【 ① 】に入る言葉は何?
〈【 ① 】東横線に乗りにけりどうにもしようないのでないか〉 (岡部桂一郎)
A. 喪服着て
B. 落涙して
C. 咳込みて
D. 酒提げて
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A. 喪服着て
喪服着て東横線に乗りにけりどうにもしようないのでないか
掲出歌は、岡部桂一郎の第六歌集『坂』の未完歌篇「うた折々」に収められた一首です。
東横線は東京都の渋谷駅と神奈川県の横浜駅を結ぶ東急電鉄の路線です。通勤にも使われる路線であり、それなりの乗車率となっています。
その東横線にひとりが乗り込んだのです。しかも「喪服」を「着て」。
喪服を着て向かうのは、弔事でしょうか。あるいはすでに終わった後の帰りの場面でしょうか。いずれにしても電車で移動していくような場所に用があったのです。
特に、喪服から着替えない限り、その行きかえりは喪服のままとなります。電車の車内で喪服の人が乗り込むと、どうしても目立ってしまいます。乗客の視線が気になるかもしれません。それは一時的なことなのですが、車内にスーツの人はたくさんいても、喪服の人はそんなにたくさんいるわけではありません。
しかし喪服のまま電車に乗る必要がある場面において、まさに「どうにもしようないのでないか」といいたくなってしまいます。
別に悪いことをしているのではないのですが、周囲の注目をわずかに集めてしまうことへの言い訳のようにも聞こえてきます。
着たくて着ているのではない、目立とうとしてこんな格好で電車に乗っているわけではない、できれば普通の服で乗りたいのだけれど今日は仕方がないのだ、だからそんなにじろじろと見ないでくれ、といったような主体の心の内が表れているように感じます。
「東横線」という具体的路線名があることで、より一層映像が引き締められて立ちあがってきます。効果的な固有名詞の使い方でしょう。これが「電車に乗りにけり」だと一般的な状況の話で終始してしまいますが、東横線という具体が、主体の一回性のできごととしてより強まっているように思います。
どうにもしようのなさがよく表れた一首。