暮れてのちほのかに灯り乾電池自販機天使突抜にあり
島田幸典『駅程』
島田幸典の第二歌集『駅程』(2015年)に収められた一首です。
自動販売機では飲み物だけでなく、さまざまなものが売られていますが、この一首は乾電池の自動販売機を詠った歌です。
「ほのかに灯り」は暮れて暗くなった時間帯の自動販売機の明かりをいっていますが、「乾電池」の役割のひとつである明かりを灯すことと響き合います。
そして何よりこの歌を特徴づけているのは「天使突抜」の一語でしょう。「天使突抜」は京都市下京区にある実際の地名ですが、何ともユニークで印象に残る地名です。
地名の由来については、元々このあたりに五條天神宮という神社があり、天正年間に境内を貫くかたちで道が通され町がつくられました。そこからこのあたり一帯を「天使の社を突き抜けてつくられた」という意味で「天使突抜」と呼ばれるようになったということです。
塚本邦雄が〈なぐはしき京見て死ねとあかねさす天使突抜春のあけぼの〉という歌を詠んでいますが、著者も当然この歌を踏まえたうえで詠んだのでしょう。
こういう地名ひとつが詠み込まれることで、過去の歌を引っ張り出しますし、その地名がもたらすイメージの喚起力によって歌が広がりを帯びてくると思います。
内容は乾電池の自動販売機が街中にあったということですが、「天使突抜」という地名が詠み込まれることによって、ただの報告歌に終わらず、色々と想像を掻き立てられる一首だと感じます。