次の歌の【 ① 】に入る言葉は何?
〈あたらしいわたしになれば
あたらしい【 ① 】になる
あたらしい日々〉 (今橋愛)
A. 肉体
B. 立体
C. 球体
D. 文体
答えを表示する
D. 文体
あたらしいわたしになれば
あたらしい文体になる
あたらしい日々
掲出歌は、今橋愛の第三歌集『としごのおやこ』の連作「はねをぬいて」に収められた一首です。
この歌集は家族、特に子どもとの日々を詠った歌が中心となっていますが、この歌もそのような日々に関連した歌として読みたいと思います。
三行書きの歌ですが、最初の「あたらしいわたし」というのは、物の考え方や物の見方が新たになった「わたし」ということだと思います。そして、そのような捉え方をする「わたし」を「あたらしい文体」という言葉で表現しています。物を捉えるということはすなわち、言葉を介して把握するということと同義であるという点から見ると、まさに「文体」が新しくなったという表現にもうなずくことができるのではないでしょうか。
そのような物の把握の仕方をする日々はまさに「あたらしい日々」であるのでしょう。
歌集において、この一首の前のページには、違う連作ですが次の一首が詠われています。その歌と掲出歌を続けて読むとよりわかりやすいかもしれません。
かなしみに焦点をあわせていたんだ
さがしはじめる
よろこびの語彙
これまでは、主として「かなしみ」を見つめる視点をもっていたということでしょうが、何かをきっかけに「よろこび」を探す視点に移ったということだと思います。
掲出歌に戻れば、「あたらしいわたし」「あたらしい文体」は、この「かなしみ」から「よろこび」を見つめる視点に変わったことが「あたらしい」といっているのではないでしょうか。「語彙」と「文体」との言葉も響き合っているように感じます。
「かなしみ」から「よろこび」を探す目に移ったことがいいことかどうかは別として、ここには変化があったということは確かでしょう。
掲出歌は「あたらしい」が三回、行頭に繰り返されており、視覚的にも、声に出したときのリズミカルな感じにおいても効果的だと感じる一首です。