製造課に若手社員が増えてきてジュースの売れ行きのびる自販機
奥村知世『工場』
奥村知世の第一歌集『工場』(2021年)に収められた一首です。
自動販売機の売れ行きは何によって決定づけられるのでしょうか。
揃えられた飲み物のラインナップはもちろん、設置場所にもよるところは大きいでしょう。また値段も関わってくるでしょう。
掲出歌は、若手社員が増えてきたことによりジュースの売れ行きが伸びてきている状況を詠っています。ここでいう「ジュース」は、自動販売機で売られているすべての飲み物を指す広い意味でのジュースなのか、それとも水やコーヒー、お汁粉、スープといった飲み物は除外した狭い意味でのジュースなのか、どちらと考えるかによって若干状況が変わってきます。
飲み物全般を指すとすれば、人が増えたことによって、この自動販売機自体の利用自体が増えたと捉えることができるでしょう。
一方、本来のジュースのみの売れ行きが伸びているということであれば、「製造課」の「若手社員」は「ジュース」をよく買う人たちが多いというように見ることができるでしょう。
どちらと捉えてもいいと思いますが、「製造課」「若手社員」といった言葉が詠まれていることから、後者と捉えた方が、この歌が詠まれた契機が「製造課」の「若手社員」の増加にあるということがはっきりするのではないかと思います。
特にテクニカルな歌でないように思いますが、その分現場の実感を感じることのできる一首ではないでしょうか。