空白をひとつ潰せば空白はドミノのごとくまた降りてくる
田中ましろ『かたすみさがし』
田中ましろの第一歌集『かたすみさがし』(2013年)に収められた一首です。
この歌で詠われている「空白」は、潰す対象として捉えられており、主体にとってあまり心地のいい「空白」ではないのかもしれません。
手ごたえのない空間、中身の薄い時間、ついついぼぉっと考えてしまう瞬間などがここでいう空白に当たるのではないかと想像できますが、その空白が訪れることを拒否しようとしている姿が見えます。
どこか喪失感のようなものを感じます。何かを失ったがゆえに訪れる空白なのかもしれません。
しかし、そのような「空白」は潰せどつぶせど、まるでドミノ倒しのようにあっという間に訪れるというのです。ドミノ倒しは一旦スタートしてしまえば、止めることは相当難しいでしょう。勢いもついて次から次にドミノは倒れていくのです。
そのドミノ倒しの速度感をもって「空白」は主体に向かって降りてくる様子が浮かんできます。
もう、この空白を追いやることはできないのでしょうか。ドミノ倒しの勢いに逆らうことはできないのでしょうか。
この一首からは、余裕や余白とはほど遠い「空白」が垣間見えるように思います。