ひと息にキリマンジャロを飲みいるは先程はつか怒りし咽喉
中川佐和子『海に向く椅子』
中川佐和子の第一歌集『海に向く椅子』(1993年)に収められた一首です。
アフリカ大陸最高峰の名称がつけられた「キリマンジャロ」は、アフリカのタンザニア北部で生産されたコーヒー豆ブランドです。強い酸味とコクのバランスがよく、日本でも人気の銘柄でしょう。
掲出歌は、怒った後にキリマンジャロを飲んだ場面が詠われています。
コーヒーといえば、コーヒーブレイクなどという言葉もありますが、本来ゆっくりと味わいながら心を落ち着けて飲みたいものです。しかしこの歌では、ゆっくりとは反対に「ひと息」に飲み干した状況を捉えています。
先ほどの怒りが収まらないままなのか、あるいはその怒りをキリマンジャロで静めようとしているのか、とにかく「ひと息」で飲んだところに「怒り」への執着が表現されています。
そして巧いと思うのは、飲んだのが「咽喉」であると収めている点です。言葉をもって怒ったのでしょうが、その怒りが咽喉に残ったままである感じがとてもよく伝わってきます。
はたして、キリマンジャロの酸味は、怒りの咽喉に沁みたのでしょうか。