問題 – Question
〈借りたままの古いゲームのサントラと貸したままのそのカセットのこと〉という巻頭歌で始まる、岡野大嗣の第三歌集は何?
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解答 – Answer
『音楽』
解説
『音楽』は2021年(令和3年)に出版された、岡野大嗣の第三歌集です。初刷は水色、2刷は黄色というように、重版ごとに背の部分の色が変わる楽しい仕掛けになっています。
歌集名の通り、音楽に関する歌が多く詠まれていますが、そのほかにも映画、写真、犬、猫といった題材が繰り返し詠まれています。
日々生活する中で、多くの人が体験しているけれども多くの人がすぐに忘れてしまうこと、あるいは言語化できていない感情を短歌にして掬いとるのがとても巧いと思います。
詠われていることと全く同じ状況ではないにしても、歌から感じる感情は過去に経験した感情であるかのように読み手に伝えられます。
巻末には次のように書かれています。
忘れたくないものを忘れても平気になるために
短歌を作っている。今はそう思っている。
やがて忘れてしまうことが、残された短歌に触れることで、再びそのときの感情がよみがえるのでしょう。そしてそれは著者だけに限らず、読み手にとっても同じように感情をよみがえらせてくれるように感じます。
様式的なテクニックよりも、いかに読み手に感情のよみがえりを呼び起こすのかというテクニックに長けた、そのような歌があふれる一冊だと思います。
『音楽』から五首
シネコンのトイレでこれから観る人ともう観た人の差がわからない
返すとは言わず戻すと言うきみの図書館きみの本棚だった
おやすみ、で終わる手紙がやってきて読めるぬいぐるみという感じ
ガスタンクを数える 3基、いや4基 3基にみえた位置から写す
音楽に景色が肩を寄せてくる夕方にいて抱きとめている
短歌クイズ Q.197
〈たやすみ、は自分のためのおやすみで「たやすく眠れますように」の意〉という巻頭歌で始まる、岡野大嗣の第二歌集は何?