問題 – Question
〈街灯の黄光の下に立つ一樹片側は夜に削られてゐつ〉という巻頭歌で始まる、楠誓英の第二歌集は何?
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解答 – Answer
『禽眼圖』
解説
『禽眼圖』は2020年(令和2年)に出版された、楠誓英の第二歌集です。
全体を通して、夜、闇、暗、影、陰、黒、冥といった言葉がよく似合うと思えるような一冊です。
本歌集で詠まれているもの、それは目に見えないものです。目に見える光景であっても、その奥に隠れている見えないものを詠んでいるのだと感じます。
そしてその見えないものは決して明るいとはいえません。明るさを伴わない部分をこそ積極的に見ようとしているように思うのです。なぜこれほどまでに見えないものを見ようとするのでしょうか。
それは著者にとっては、短歌とはそのようなものであるという考えがあるからでしょう。あとがきで次のように述べています。
見えるものの向こう側に心を寄せていく。見えないものを視る「眼」が欲しいと苦しいまでに切望する時がある。
あとがき
その「眼」は暗闇でも対象を見ることができる「禽の眼」なのです。禽の眼を切望する著者は、明るさから事物を見つめるのではなく、暗闇から事物を見つめ、そしてさらにその奥に潜む真実をも見つめようとしているのです。
本歌集は、禽の眼によって見ることを徹底的に追求した一冊だと感じます。
『禽眼圖』から五首
片側を闇にのまれてそよぐ樹を観ればかつてのわたくしならん
伏せられしボートのありてこんなにも傷はあるんだ冬の裏には
木の下の暗がりのなか雨をみる禽のまなこになりゆく真昼
飛びたつた空の深さをおもひたり有刺鉄線にこびりつく羽根
風に舞ふ袋ああかつて頭に袋おほはれたまま刺されしものよ