〈この先のこと話そうか昼すぎの雨にしめった帽子を脱げり〉という巻頭歌で始まる、江戸雪の第五歌集は何?
『声を聞きたい』
『声を聞きたい』は2014年(平成26年)に出版された、江戸雪の第五歌集です。2009年から2014年までの短歌を収録しています。
著者はあとがきで次のように記しています。
声が聞こえてくる歌を作りたい。
あとがき
そして、
私の歌の言葉が声となって
誰かのなかを流れる日があるなら、うれしい。
現代において短歌に触れるとき、「読む」という行為を通して歌を味わう場合が多いと思います。歌会などにおいては誰かが短歌を読み上げ、それを聞くという場面もあるでしょうが、一人で短歌に接する機会のほうがまだまだ多く、歌集や総合誌、結社誌などに掲載されている歌を目で見て、読んで、その一首の世界に浸るということになるでしょう。
その場合、短歌は読み手に対してどのように響くのでしょうか。あとがきでは「言葉」だけの短歌に留まらず、「声」となる短歌であることを希求しています。
「読む」行為は、ともすると文字情報としての「言葉」として受け取ることにつながりやすいのですが、「読む」という行為からでも「声」を感じる歌であってほしい、その思いが込められたのが本歌集なのだと感じます。
本歌集を読んでいると読み手に問いかけてくるような歌がありますが、まさに「声」を意識した歌であり、そのような心の奥に生き生きと響いてくる歌に出会ったとき、いい歌に触れることができたなあと実感することができる一冊です。
『声を聞きたい』から五首
ふいに風うしろをとおりすぎたとき図書館の鍵開けていたので
メニメニメニメニメニメニィサンクスとこの少年に言う日のありや
もういちど逢うなら空をつきぬける鳥同士でねそしてそれは夏
ゆうぐれの鳥がひやりと風に乗り永久欠番のように飛んでる
でもわれに言葉はうまれ傍にいるひとにすなわちあなたに告げる