問題 – Question
〈塵かすかつきたる眼鏡冬の陽に見て来しもののよごれふきとる〉という巻頭歌で始まる、小高賢の第一歌集は何?
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解答 – Answer
『耳の伝説』
解説
『耳の伝説』は1984年(昭和59年)に出版された、小高賢の第一歌集です。
本歌集の中心を成すテーマは、家族と仕事でしょう。父、兄、妻、子など家族を詠んだ歌が印象的であり、また編集者であった著者の仕事を題材とした歌も実感を伴って迫ってきます。
編集者という職業も影響しているのかもしれませんが、家族を詠んだ歌は家族を思いやる気持ちと同時にどこか距離感を感じます。それは冷めた家族というのではなく、家族を思うがゆえの距離なのでしょう。著者の孤独な様が時折歌に現れます。けれども、対象を冷静に見つめる眼、そして家族といえどひとりの人として見つめる眼、そのようなさびしさと優しさを同時に湛えた思いを歌々に感じます。
『耳の伝説』から五首
的大き兄のミットに投げこみし健康印の軟球はいずこ
青き葉を卓に並べるさびしきかな子はあきないを知りはじめたり
編集者よりわれに還りて父となる夕べの道をゆく迷い猫
かつて父坐りし古き卓の前吾れが坐りて夜のひかりさす
みどり子のために茹でたる寒卵が残されたまま卓に孤立す