どの歌人がどんな歌を詠んでいるか、特徴をいろいろ知りたいけど、多くの歌人の歌が載った一冊はないかなあ?
短歌を始めるとまもなく、どんな歌人が活躍していて、どんな歌が詠まれているのだろうかといったことに興味が湧いてきます。いろいろな歌に触れて、自分の歌づくりのお手本や参考にしたい、活かしたいとも考えます。
いい歌をつくりたいという思いは、短歌を詠み続けていくにつれて増してくるのではないでしょうか。でもいったい「いい歌」とはどんな歌を指すのだろうかということに突き当たります。
いい歌の基準は人それぞれ異なるでしょう。いい歌の基準というのは、多くの歌に触れて自分の中でつくりあげていくしかないのかもしれません。そのようなとき、多くの歌に触れるきっかけをつくってくれるのが、今回紹介する小高賢さんの『現代の歌人140』です。
いい歌の基準は人それぞれとはいいましたが、いい歌のひとつの基準として、広く読まれている歌、時代を超えて長く読まれている歌を挙げてもいいでしょう。『現代の歌人140』には、そのような歌が多数収められています。
まだ誰の歌集を買えばいいかわからないという人にとっても、ある程度短歌の経験があるという人にとっても、当書は手元に置いておきたい一冊になるのではないでしょうか。
当書のもくじ
まずは『現代の歌人140』のもくじを見てみましょう。
五十音順目次
はしがき
【大正以前】
- 小暮政次
- 齋藤史
- 近藤芳美
- 岡部桂一郎
- 加藤克巳
- 清水房雄
- 森岡貞香
- 宮英子
- 田谷鋭
- 浜田蝶二郎
- 武川忠一
- 安永蕗子
- 竹山広
- 塚本邦雄
- 安立スハル
- 北沢郁子
- 岩田正
- 岡野弘彦
- 山中智恵子
- 前登志夫
- 春日真木子
- 富小路禎子
【昭和/戦前】
- 上野久雄
- 尾崎左永子
- 岡井隆
- 馬場あき子
- 橋本喜典
- 髙瀬一誌
- 蒔田さくら子
- 川口美根子
- 雨宮雅子
- 山埜井喜美枝
- 田井安曇
- 水野昌雄
- 石田比呂志
- 来嶋靖生
- 篠弘
- 稲葉京子
- 宮原望子
- 石川不二子
- 志垣澄幸
- 松坂弘
- 杜澤光一郎
- 奥村晃作
- 青木昭子
- 秋葉四郎
- 小中英之
- 浜田康敬
- 佐佐木幸綱
- 春日井建
- 辺見じゅん
- 大河原惇行
- 三井ゆき
- 玉井清弘
- 藤井常世
- 柏崎驍二
- 田村広志
- 高野公彦
- 成瀬有
- 黒木三千代
- 佐藤通雅
- 福島泰樹
- 前川佐重郎
- 伊藤一彦
- 三枝昻之
- 中野昭子
- 外塚喬
- 草田照子
- 小高賢
- 大島史洋
- 古谷智子
【昭和/戦後】
- 久々湊盈子
- 日高堯子
- 沖ななも
- 河野裕子
- 時田則雄
- 三枝浩樹
- 安田純生
- 香川ヒサ
- 永田和宏
- 秋山佐和子
- 佐伯裕子
- 小池光
- 道浦母都子
- 花山多佳子
- 池田はるみ
- 大下一真
- 三井修
- 桑原正紀
- 阿木津英
- 田宮朋子
- 島田修三
- 山田富士郎
- 吉岡生夫
- 永井陽子
- 今井恵子
- 藤原龍一郎
- 渡英子
- 影山一男
- 武下奈々子
- 今野寿美
- 柳宣宏
- 松平盟子
- 内藤明
- 栗木京子
- 中川佐和子
- 尾崎まゆみ
- 渡辺松男
- 久我田鶴子
- 中津昌子
- 一ノ関忠人
- 小島ゆかり
- 坂井修一
- 大滝和子
- 水原紫苑
- 川野里子
- 米川千嘉子
- 加藤治郎
- 谷岡亜紀
- 小塩卓哉
- 大辻隆弘
- 大塚寅彦
- 林和清
- 穂村弘
- 荻原裕幸
- 俵万智
- 東直子
- 真中朋久
- 紀野恵
- 辰巳泰子
- 前田康子
- 江戸雪
- 吉川宏志
- 大口玲子
- 梅内美華子
- 松村正直
- 大松達知
- 横山未来子
- 斉藤斎藤
- 永田紅
【付録】現代・短歌年表
当書は、明治の終わりから昭和にかけて生まれた歌人140名の歌が多数収められたアンソロジーです。お気に入りの歌人もいれば、これまであまり読んだことのない歌人もいるでしょうが、このように歌人名を並べてみると圧巻です。取り上げられた歌人の時代的な範囲も広く、現代短歌鑑賞の入門書として最適な一冊といえるでしょう。
おすすめのポイント
それでは、当書の特長やおすすめのポイントを順番に見ていきます。
140名の4,200首
当書のおすすめは何といっても、140名もの歌人の代表的な歌に触れることができることです。それぞれ30首が掲載されていますので、この一冊で4,200首の短歌を味わうことができます。現代短歌を鑑賞するに当たり、非常に充実した内容量といえます。
これほどの数の短歌が収録されているので、この中から自分の好みの短歌をいくつも見つけることができるでしょう。
各人30首の選歌は、亡くなった歌人やその他一部を除き、原則自選によると書かれています。世代別に何首か引いてみます。
人を責め責めつつ気弱になりたれば夕べかがやくヒーターに寄る (小暮政次『春望』)
冬天に残る柘榴のひとつのみ瑕瑾だらけといふが愛しも (安永蕗子『緋の鳥』)
凄まじき風の響みにいくたびか眼ざめては思う山の容を (橋本喜典『地上の問』)
人肌の燗とはだれの人肌か こころに立たす一人あるべし (佐佐木幸綱『百年の船』)
手のなかの一本の指がぬきんでて壁のぽっちに圧力加う (沖ななも『一粒』)
ああ母はとつぜん消えてゆきたれど一生なんて青虫にもある (渡辺松男『泡宇宙の蛙』)
馬のごと君を撫でればやさしさはやわらかく首おとすまで (前田康子『ねむそうな木』)
人はみな馴れぬ齢を生きているユリカモメ飛ぶまるき曇天 (永田紅『日輪』)
最初から順番に読んでもいいですし、好きな歌人のページから読んでもいいと思います。どのページから読んでもいいように、歌人一人につき見開き2ページで構成されています。歌人名などの情報が、各ページの同じ位置にが表示されているのも、ページをパラパラとめくったときにわかりやすいつくりになっています。
著者による短評
それぞれの歌人の30首に対して、著者の短評が付されています。短評とはいっても、見開き2ページの下3分の1程度を占めるほどの十分な分量です。
単に短歌一首一首の鑑賞にとどまらず、作者の背景や環境などについても書かれている点が、読んでいて特に興味深いところです。例えば次のような文章を見つけることができます。
登山を好み、その体験を生かした作品も話題になった。しかし、歌集『暁』にあるように、九死に一生を得るような大変な体験をした。山頂近くで、心筋梗塞の発作をおこしてしまったのである。ヘリコプターによって救出され、あやうく一命をとりとめた。
(来嶋靖生)
いろいろな場面で、内藤明に会うことが比較的多い。彼はいつも疲れている。大学での激務もあるだろう。と同時に、酒席への付き合いのよさも背景にあるのではないか。話せばじつに明晰で、文章もシャープで、論客なのであるが、どこか醒めている。
(内藤明)
高校時代の先生であった奥村晃作によって、「コスモス」に入り、高野公彦、影山一男、桑原正紀などの「棧橋」によって鍛えられたという経歴を抜きに、大松達知は語れないだろう。
(大松達知)
短歌作品とその背景が重なり合うことで、初めて読む作者であったとしても、その作者についてのイメージが膨らみます。
五十音順目次がついている
140名もの歌人が収録されているため、目的の歌人を探すとき年代別目次だけでは探しづらい場合があります。そのときに役立つのが「五十音順目次」です。五十音順になっているため、すぐに目的の歌人のページを探すことができます。
現代・短歌年表
巻末には「現代・短歌年表」と題し、1985年(昭和60年)から2008年(平成20年)までの歌集・歌書の刊行年表がつけられています。刊行年だけでなく刊行された月まで記されているので、どの歌集・歌書がいつ頃出てきたのかを見ていくのに役立ちます。当時の社会・世相も合わせて記載があります。
持ち運びできる
多くの短歌を掲載した本は、大きくまた分厚くなりがちです。当書は多数の歌を収めながらも、300ページでそれほど分厚くもありません。鞄に入れて持ち運びできるので、家の中だけでなく通勤・通学の移動中や外出先でも読むことができます。場所を選ばないというのは、かなり重要なポイントだと思います。
まとめ
『現代の歌人140』のポイントまとめ
- 明治から昭和生まれまで幅広い歌人の短歌に触れることができる
- お気に入りの短歌が見つかる
- 短評により、作品だけでなく作者の背景や環境を知ることができる
- 場所を選ばず、いつでもどこでも好きなページを開いて読むことができる
当書は多くの歌人のさまざまな短歌が掲載されているので、幅広く短歌に触れる点で最適です。またある程度短歌を読み慣れている人にとっても、有名どころの歌をいつでも参照できる点で優れています。気分に応じていつでも好きな歌を読むことができるよう手元に置いておきたい一冊です。
書籍・著者情報
書籍情報
著者 | 小高 賢 |
発行 | 新書館 |
発売日 | 2009年11月5日 |
※本記事は、2014年1月10日 第3刷 を基にしています。
著者プロフィール
昭和19年東京都本所区(現・墨田区)生れ。昭和47年、編集者として馬場あき子に会い、作歌を始める。昭和53年「かりん」創刊に参加。以後、作歌とともに旺盛な批評活動を展開している。平成12年『本所両国』で第5回若山牧水賞受賞。歌集に『耳の伝説』『家長』『太郎坂』『怪鳥の尾』『液状化』『眼中のひと』など。評論に『この一身は努めたり』『現代短歌作法』『転形期と批評』『宮柊二とその時代』『近藤芳美』、編著に『現代短歌の鑑賞101』『近代短歌の鑑賞77』などがある。
(当書著者略歴より)