風だけが似ている街でGoogleに本屋の場所を教えてもらう
木下龍也『オールアラウンドユー』
木下龍也の第三歌集『オールアラウンドユー』(2022年)に収められた一首です。
普段住んでいるエリアとは違う街を訪れたときの歌だと思います。
主体自身が住んでいる街であれば、本屋の場所も把握しているでしょうが、初めて訪れる場所やかなり昔にいったことがある程度の場所では、本屋を含めた店の位置がわからないのは当然でしょう。
本屋の場所を知りたいと思ったときにどうするかといえば、Googleに尋ねてみるのです。そうすれば、ものの数秒で一番近い本屋、少し距離が離れるけれど大型の書店などを教えてくれるでしょう。
「Googleに本屋の場所を教えてもらう」だけでは中々一首として成立することは難しいでしょうが、この歌を一首として立たせているのは、初句二句の「風だけが似ている街」という捉え方です。
初めて見た街の感じを喩えるとき、雰囲気が似ているとか、大型ショッピングモールがあるところが同じであるとか、駅前広場の感じがそっくりとか、そういった目に見える印象で捉えることが多いと思います。
しかし、ここでは「風」を共通項として、しかも限定事項として「風だけが似ている」として捉えているのです。風が似ているというためには、主体がいつも住んでいる街の風の様子も知っている必要があります。風の感じを意識しながら日々過ごしている人がどれくらいいるでしょうか。
“あなたが住んでいる街と、あなたが今初めて訪れたこの街と、風の感じは似ていますか?”
このような質問をされて、はっきりと回答できる人は少ないのではないでしょうか。
風だけが似ていると感じている状況で、Googleに本屋の場所を教えてもらうといったところが、風の吹き抜ける清々しさを感じさせ、さらっとした印象を与えてくれて、それが心地よく感じます。
風が肌に触れる感覚が呼び起こされ、視覚よりも触覚を刺激してくる一首ではないでしょうか。



