Googleに訊くまでしばし考へるメニューの一つ「しぶい定食」
田村元『昼の月』
田村元の第二歌集『昼の月』(2021年)に収められた一首です。
インターネットが普及するまでは、調べものといえば図書館で行ったり、辞書を引いたり、誰か詳しい人に教えてもらったりというのが主流だったと思います。
もちろん今でもそういった昔ながらのスタイルが変わらない部分や領域はありますが、日常のちょっとした疑問を調べるだけであれば、スマホやパソコンで検索する人が圧倒的に増えてきました。いや、増えてきたというレベルではなく、それが当たり前になってきているといってもいいでしょう。
掲出歌は、詞書に「「ハイウェイ食堂」で朝食」とあります。この歌が収められている一連から見ると、沖縄県の那覇を訪れたときの歌のようです。
メニューに「しぶい定食」と書かれていたのでしょう。主体は「しぶい定食」が何かを知らなかったことが窺えます。
まず「しぶい」といわれると、「派手」の反対語の意味としての「しぶい」が浮かびますし、渋柿を食べたときのような「しぶい」も思い浮かびます。「しぶい定食」とは一体どんな定食なのだろうか。Googleで検索すれば、たちまち答えを返してくれるので、答えを求めるだけであれば、すぐにGoogle検索すればいいわけです。
しかし、主体はすぐには調べず少し考える時間をもちました。答えはすぐにわかるけれど、あえてすぐに答えを求めないところに、主体の日常の過ごし方や生きていく上での態度のようなものが垣間見えるのではないでしょうか。検索する前に「しぶい定食」を想像する時間が楽しいといえば楽しいものです。想像する時間をもつゆとりも感じられます。
さて、沖縄で「しぶい」が何かを調べてみると、「冬瓜」のことのようです。定番食材として使われているようです。「しぶい」は渋いではなく、冬瓜だったのですね。
パソコンやスマホの検索ですぐに答えがわかる時代は素晴らしいですし、その恩恵は計り知れません。だからこそ、すぐには訊かず、しばらく考えてみる時間をもつことが大切であり、何よりそのような考えたり想像したりする時間が日常を豊かにしてくれるのではないでしょうか。そんなことを感じる一首です。



