次の歌の【 ① 】に入る言葉は何?
〈【 ① 】のように翳したあのひとが使わなかったガムシロップを〉 (鈴木美紀子)
A. 指揮棒
B. 小国旗
C. 水晶
D. 白魚
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C. 水晶
水晶のように翳したあのひとが使わなかったガムシロップを
掲出歌は、鈴木美紀子の第一歌集『風のアンダースタディ』の一連「海は逃げない」に収められた一首です。
ガムシロップは、アイスコーヒーやアイスティーなどに入れるケースが多いでしょう。
例えばカフェでアイスコーヒーを注文すると、ガムシロップが付いてくることがありますが、そのガムシロップを使うかどうかは自由です。
毎回使う人もいれば使わない人もいます。また、その日の気分によって、甘いコーヒーを飲みたいときは使い、何も入れずに飲みたいときは使わないこともあるでしょう。
掲出歌では、「あのひとが使わなかったガムシロップ」に焦点が当たっています。
「あのひと」は、アイスコーヒーかアイスティーか飲み物の方はすでに飲み終えたのでしょう。そして、「あのひと」はもうその場にはいない状況のように思います。
一人その場に残った主体は、ガムシロップを手にとって翳したのですが、「水晶のように」というところがこの歌の見どころだと感じます。
確かに、水晶を手にとって見るとき、光が当たるように翳して見た経験がある人が多いのではないでしょうか。「水晶のように翳した」と詠われるだけで、そこには透き通った光のイメージが浮かび上がってくるように思います。
ただ実際に翳したのは水晶ではなく、ガムシロップです。翳したガムシロップにも同じように光が当たっていたのでしょう。
使わなかったガムシロップを翳すという行為は普段あまり見られないのではないでしょうか。そう思うと、ガムシロップを翳すという行為の意味、「あのひと」が残したガムシロップを翳すという行動に到らせた主体の気持ちは、なかなか複雑かもしれません。あるいは、あまり深い意味はなく、何となく翳してみたということもあるかもしれません。
この歌には”なぜ”翳したのかは詠われておらず、”どのように”翳したかがあるだけです。理由をあれこれ想像するのは自由であり、想像することで歌に深みが増すことはありますが、この歌の場合は、”なぜ”を一番にして歌を読むよりも、「水晶のように翳した」というその状況を一番に感じてじっくりと味わうのがいいのではないでしょうか。
ガムシロップと水晶、この二つの結びつきによって魅力的で新たな視点が与えられる、そんな一首だと感じます。