観覧車の歌 #4

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観覧車の短歌

まるで悪意のごとき等距離 傾いた夕空に観覧車点れり
魚村晋太郎『銀耳』

魚村晋太郎の第一歌集銀耳(2004年)に収められた一首です。

観覧車のゴンドラの間隔に注目した歌です。

観覧車のゴンドラは円周上に配置されていますが、ゴンドラとゴンドラの間隔は確かに同じ距離で一定に保たれています。「等距離」というのは、いわれてみると当たり前かもしれませんが、観覧車を見たり想像したりするとき、ゴンドラとゴンドラの間の距離に注目するというのはやはり独特の視点だと感じます。

また、その「等距離」ですが、「まるで悪意のごとき」と表現されているところが、この歌を特徴づける最大のポイントではないでしょうか。

ゴンドラ間の距離が等しいというのは、数学や物理といった面からのアプローチともとれますが、ここに「悪意のごとき」が登場することによって、それは単に数字上等しいといったものだけでは収まらない何かが噴き出しているように感じます。

観覧車を動かす上で間隔がばらばらだと不都合があるのかもしれません。したがって「等距離」に設計されているわけですが、この間隔は、ずれを許さない正確さが求められるのでしょう。つまり、ゴンドラ間の距離は長くしたり短くしたりできるものではないのです。

一旦ゴンドラに乗ってしまえば、前のゴンドラに追いつくこともできませんし、後ろのゴンドラから追いつかれることも決してありません。常に一定の間隔を保って、観覧車は回っているのです。別のゴンドラに近づきたいと思っても、あるいは別のゴンドラから離れたいと思っても、その思いは叶えられませんし、その思いを抱く抱かないに関わらず、ゴンドラはいつも等距離を保っているのです。

自らの意思ではどうしようもないこと、また完璧なまでの「等距離」が、「悪意のごとき」に集約されているように感じます。「悪意のごとき」と「傾いた」も呼応していると思います。

夕空に浮かびあがる観覧車には、より一層その等距離がはっきりと意識されたのかもしれません。「等距離」からさまざまに想像させてくれる歌であり、とても印象に残る一首です。

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