次の歌の【 ① 】に入る言葉は何?
〈プリントの花柄模様にうずもれて【 ① 】になりたい真昼〉 (早坂類)
A. 綺麗な蝶
B. 静かな露
C. 些細な風
D. 邪悪な虫
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D. 邪悪な虫
プリントの花柄模様にうずもれて邪悪な虫になりたい真昼
掲出歌は、早坂類の第一歌集『風の吹く日にベランダにいる』の一連「竹下通りの天気雨」に収められた一首です。
ここでいう「プリントの花柄模様」とは、服やカーテンなどの生地の花柄模様を指しているのでしょう。自分が身につけている服かもしれませんし、誰か別の人が着ている服かもしれません。または服ではなく、カーテンや枕カバーなどの生地の花柄模様かもしれません。
いずれにしても花柄模様を見ているわけですが、その花柄模様に埋もれたいと詠われています。
そしてただ埋もれるだけではなく「邪悪な虫になりたい」というのです。
「邪悪な虫」とは何でしょうか。具体的に何の虫かは示されていませんが、虫であることは確かなようです。例えば別の虫を食べてしまう虫や危害を加える虫などを指すのでしょうか。
虫が邪悪かそうでないかを決めるのは、人間の側であって、その虫自身からすれば自分が邪悪かどうかなどは考えたこともないでしょう。
そんな邪悪な虫になりたいということですが、邪悪な虫になりたいというよりも、人間として生きることを一時的に止めたいという思いの方が強いのではないでしょうか。人間という存在を逃れたいがゆえの結果として、邪悪な虫が登場しているようにも思います。それは三句の「うずもれて」によるところが大きいでしょう。「花柄模様」の世界へ埋もれたいという希求は、現状とは違う世界への憧れであり逃避であるように感じます。
花柄模様という一見きれいな世界だからこそ、その美しい世界の秩序を壊してしまうような、対極に位置するような「邪悪な虫」になりたいというのも、どこか現状に対して納得がいっていないからこそ出てくる思いのように感じるのです。
そのような考えが浮かんでくるのは、「真昼」という時間帯が影響しているのかもしれません。
邪悪な虫になった後どうするのか、どうしたいのか、それは二の次であり、邪悪な虫になることそのものが、この瞬間に最も求められていることなのでしょう。
「邪悪な虫」という言葉が印象に残る一首です。