やわらかな曲線である 新入学児なみなみ載せたプラットホーム
安藤美保『水の粒子』
安藤美保の第一歌集『水の粒子』(1992年)に収められた一首です。
「プラットホーム」という語にはいくつか意味がありますが、この歌では駅のプラットホームを指しているのでしょうか。
季節は春。”新入学生”ではなく「新入学児」とあるので、小学生というよりも保育園児や幼稚園児のことを詠っているのだと思います。
プラットホームに新入学児があふれている様子を「なみなみ載せたプラットホーム」と表現しています。普段はこれほどの児童が集まっている様をあまり目にすることがないのかもしれませんが、この日だけは特別で、プラットホームに新入学児がより集まって、期待と不安とを感じながら立っている光景が浮かんできます。
さて、その様子を「やわらかな曲線である」と詠っています。駅のプラットホームは本来曲線ではなく直線のイメージがありますが、ここでは「曲線」として捉えられています。それも「やわらかな曲線」としてです。
これは物理的な曲線というのではなく、主体が見た光景に対する心情としての「曲線」なのではないでしょうか。普段は角ばった駅のプラットホームが、この日ばかりは曲線のようにやわらかいイメージをもって主体に提示されたのではないでしょうか。
それは「新入学児」のあふれる様子がそう感じさせたといえますが、それを「やわらかな曲線」と表現したところにこの歌の魅力が詰まっていると感じる一首です。