問題 – Question
〈頰のあたり母に似て来しこと言われ万葉集の講義もうつろ〉という巻頭歌で始まる、安藤美保の第一歌集は何?
答えを表示する
解答 – Answer
『水の粒子』
解説
『水の粒子』は1992年(平成4年)に出版された、安藤美保の第一歌集です。
学業、家族、日常に関わる歌が鋭い視点でもって詠われた歌が多く収められています。
著者は、1991年、不慮の事故により24歳という若さで亡くなりました。この歌集は第一歌集であるとともに遺歌集でもあります。
読み手はどうしてもその事実を抜きに本歌集を読むことはできませんが、その背景を知りつつも、できる限り歌そのものと向き合って読むことが求められるのではないでしょうか。
本歌集には色々な題材が登場しますが、通して読むと、さまざまな色を詠み込んだ歌が数多く登場することに気づきます。著者の色彩に対するこだわりがそこから伝わってくるように感じます。
また他者との関係や距離感、そして自分の存在への問いが表れた歌も深く印象に残ります。
若さというひとことで括ってしまうわけではありませんが、感性の瑞々しさを感じる一冊です。
1993年(平成5年)、本歌集にてながらみ書房出版賞特別賞受賞。
『水の粒子』から五首
白抜きの文字のごとあれしんしんと新緑をゆく我のこれから
君の眼に見られいるとき私はこまかき水の粒子に還る
煉瓦色の服にくるまり見ていたり粉々に割れ落ちてゆくもの
幾重にもガラスに隔てられてあればシャープな動きの選手も歪むよ
緻密に緻密かさねて論はつくられぬ崩されたくなく眼をつむりおり